明日はきっといい天気

お仕事の話、思い出の話、未来の話

かえりたくなる

小さい頃、祖父母の家で暮らしていた時期があった。

 

祖父と祖母と小さい私。

 

祖父の家の目の前は海で、

すぐ近くには漁港があって、

ふたりは漁師だった。

 

磯臭い、海の香り。

 

正直私はこのにおいが激しく苦手だった。

フナムシとかカニやらが

我が物顔でそこらを歩いていたし、

網にかかったカブトガニやらエイやウミヘビやらが

よく家の前のブロックに干してあるのも嫌だった。

(商売道具の網を傷つけるので、

海に返さないため…らしい)

 

そこら中に凶暴な野良猫がいて、

生々しい喧嘩の跡を晒しては

これも我が物顔で歩き回り

漁師たちから売り物にならない雑魚をもらっていた。

 

おそらく2〜3歳、5〜6歳の

それぞれほんの一時期だったと

今になっては思うのだけど、

 

幼い頃の例えば1ヶ月なんて

きっと永遠に感じられるから。

 

当時の私にはひたすら長かった。

 

 

祖父母は 

朝早くまたは夜中のうちに漁に出て

昼過ぎには帰ってきて、

その日の成果を仕分けして

漁港や知り合いに持っていったり、

干物に加工したり…していたと思う。

 

田舎の大きな木造の家で、

私は一日ぼんやり過ごしていた。

 

3人で夕飯を囲んでいる記憶はあるけれど、

その他の食事はどうしていたんだっけ?

記憶がない。

 

2歳の頃にはひらがなが読めたらしく、

1人で絵本を呼んだり絵を書いたり。

チラシ裏の白紙がなくなると

手持ち無沙汰で

よく空想にふけっていた。

 

とにかく退屈だったってことは覚えている。

 

 

 

高校生になった頃、

祖母が私にその時のことを話してくれた。

 

ひとりでぼんやり過ごしててね、

 

ああ、早くお家に

帰りたいなあ。

パパとママのいる私のおうち。

 

って言ったんだよ。

それでね、

ちゃんと聞こえてないふりして

 

何か言った?

 

って聞いたらね、

 

ううん、何でも。

って答えたんだよ。

 

3歳になるかならないかの子がだよ。

もうそれが忘れられなくてね。

 

 

 

私にその記憶はないけど、

祖母がそう言うなら言ったんだろう。

 

お世話になっておきながら薄情なやつめ。

 

 

 

とにかく一番に覚えているのは、

毎日夕方になると

2人の帰りを待ちながら海を眺めて、

お家に帰りたい、って思ってた記憶。

 

 

大人になった今でも、

海の香りを嗅ぐと

帰りたくなる。

 

実家へ?ううん。

祖父母宅へ?ううん。

自宅?ううん。

 

そういう特定の場所じゃなく、

ただ

”かえりたくなる”。

 

 

 

特定の香りを嗅いで、

特定の記憶・感情が呼び覚まされることを

プルースト効果

というらしい。

 

 

私のこの気持ちは、

まあそんな理屈で

説明できるのかもしれない。

 

 

海の香りで、

かえりたくなる。

 

  

ひとつ賢くなった。

かもしれない。

 

 

また海を見に行きたい。